昨年、山形県鶴岡市で開催された伝統作物種苗保全ネットワーク会議に、東京都種苗会事務局として参加いたしました。
その中で行われたのが、地域に受け継がれてきた伝統野菜 與治兵衛(よじべえ)きゅうり の採種研修会です。
種を採る。言葉にすれば短い一言ですが、その背景には、長い年月をかけて積み重ねられてきた知恵と、地域の人々の思いがありました。

100年以上守られてきた一本の系譜
與治兵衛きゅうりは、鶴岡市周辺で長く受け継がれてきた伝統作物です。
保存会のお話によると、この地域は冷夏や獣害の影響もあり、畑作にとって決して容易な環境ばかりではなかったとのこと。それでも、このきゅうりは100年以上にわたり、一軒の農家によって守られてきた歴史があるそうです。
【與治兵衛きゅうりの特長】
長さ20cm余り、太さ7cm程度。半白で、白イボ。完熟すると30cm近く、太さはビール瓶くらいになります。着果は不規則で飛び節成りで、つる首付近にやや苦味がありますが、非常にみずみずしいです。地元の方はこれを農作業の際に水筒がわりにしていたほどの水分量です。置き漬け(長期間漬ける塩漬け)にすると身がやせてしまうため、生食に向きます。伝統的な用途は生食と精霊馬を作る材料に使うことでした。

種取りは、実を残すだけではない
今回の研修会では、「いかに交雑を防ぎ、純系を守るか」をテーマに、実践的な採種方法について学びました。伝統作物種苗保全ネットワーク会議の議長である山形大学教授江頭宏昌氏からご挨拶がありました。

また、與治兵衛きゅうりの由来もお伝えいただきました。
養蚕が盛んに行われていた大正時代の始め頃、小国の五十嵐與治兵衛家に温海の峠ノ山から婿がきました。その人が養蚕と桑の栽培法に関する先進的な技術を学ぶために、新潟県の村上へ通って、そこから種をもらい受け、代々門外不出のキュウリとして大切に伝えてきたものです。
そして採種方法に関して日本ではキュウリ専門の育種メーカーとして名高いときわ研究場の代表小田篤氏に講演をお願い致しました。

ときわ研究場 代表取締役 小田篤(おだあつし)氏
【ときわ研究場】
埼玉県吉見町にあるきゅうり専門の種苗メーカー。昭和32年に白イボきゅうりの育成に成功。以来、きゅうりといえばときわ研究場となっています。

今回は東京都種苗会から日本種苗協会会長でもある油木大樹氏もオブザーバーとして参加しました。(写真左)
純系を守るための、丁寧なひと手間
きゅうりは自然のままでは他の花粉がつく可能性があります。そのため、品種の特性を守るには交雑防止が欠かせません。
1. 開花前の雌花に袋をかける
2. 朝6〜8時頃に人工授粉する
3. 交配後は記録札をつける
4. 雨天時の作業は避ける

完熟まで待つことも技術のうち
受粉後40〜45日ほどかけて、果実が黄色く完熟するまで待ちます。さらに収穫後も1週間ほど追熟させてから、ようやく種を取り出します。急がず、待つ。それもまた採種に欠かせない大切な技術でした。
種を取り出し、未来へ残す

追熟した果実を割り、種を取り出し、1〜2日ほど発酵させてゼリー質を分離させます。その後、よく洗浄し、日陰でしっかり乾燥させて保存します。
乾燥後は採種日を記録し、冷蔵保存。適切に管理すれば、数年間使用できるとのことでした。

小さな種の中にある未来

今回の研修会で学んだのは、採種技術だけではありません。便利な時代になっても、最後に種を守るのは人の手であり、人の思いです。




小さな種の中には、その土地の歴史、文化、そして未来への希望が詰まっています。
最後に保存会の方々に懇親会を開いていただきました。

もちろん與治兵衛きゅうりをご用意いただきました。とても瑞々しくて生のままでとても美味しかったです。

そして同じく鶴岡市の伝統作物である早田(わさだ)うりもご用意いただきました。プリンスメロンのような風味と食感で、爽やかな甘さが特長でした。



そしてこちらも伝統作物の温海(あつみ)かぶを使用したライスバーガーもご用意いただきました。地元のお店で作っていて、とても食べ応えがあり特徴的なご当地バーガーでした。

懇親会では終始和やかな雰囲気で保存会の方々、そして地元の方々とも交流を深めることができ、大変貴重な会となりました。


與治兵衛きゅうりを通じて、種をつなぐことは、人をつなぐことでもあると感じた一日でした。
與治兵衛きゅうり保存会の方々には今後もぜひ末長く活動を続けていただきたいものですね。
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