種をつなぐ、人をつなぐ

鶴岡で出会った與治兵衛きゅうりの物語


はじめに

昨年、山形県鶴岡市で開催された伝統作物種苗保全ネットワーク会議に、東京都種苗会事務局として参加いたしました。

その中で行われたのが、地域に受け継がれてきた伝統野菜 與治兵衛(よじべえ)きゅうり の採種研修会です。

種を採る。言葉にすれば短い一言ですが、その背景には、長い年月をかけて積み重ねられてきた知恵と、地域の人々の思いがありました。

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100年以上守られてきた一本の系譜

與治兵衛きゅうりは、鶴岡市周辺で長く受け継がれてきた伝統作物です。

保存会のお話によると、この地域は冷夏や獣害の影響もあり、畑作にとって決して容易な環境ばかりではなかったとのこと。それでも、このきゅうりは100年以上にわたり、一軒の農家によって守られてきた歴史があるそうです。

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種取りは、実を残すだけではない

今回の研修会では、「いかに交雑を防ぎ、純系を守るか」をテーマに、実践的な採種方法について学びました。伝統作物種苗保全ネットワーク会議の議長である山形大学教授江頭宏昌氏からご挨拶がありました。 

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そして採種方法に関して日本ではキュウリ専門の育種メーカーとして名高いときわ研究場の代表小田篤氏に講演をお願い致しました。

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ときわ研究場 代表取締役 小田篤(おだあつし)氏

【ときわ研究場】

埼玉県吉見町にあるきゅうり専門の種苗メーカー。昭和32年に白イボきゅうりの育成に成功。以来、きゅうりといえばときわ研究場となっています。

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今回は東京都種苗会から日本種苗協会会長でもある油木大樹氏もオブザーバーとして参加しました。(写真左)

純系を守るための、丁寧なひと手間

きゅうりは自然のままでは他の花粉がつく可能性があります。そのため、品種の特性を守るには交雑防止が欠かせません。

1. 開花前の雌花に袋をかける

2. 朝6〜8時頃に人工授粉する

3. 交配後は記録札をつける

4. 雨天時の作業は避ける

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完熟まで待つことも技術のうち

受粉後40〜45日ほどかけて、果実が黄色く完熟するまで待ちます。さらに収穫後も1週間ほど追熟させてから、ようやく種を取り出します。急がず、待つ。それもまた採種に欠かせない大切な技術でした。

種を取り出し、未来へ残す

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追熟した果実を割り、種を取り出し、1〜2日ほど発酵させてゼリー質を分離させます。その後、よく洗浄し、日陰でしっかり乾燥させて保存します。

乾燥後は採種日を記録し、冷蔵保存。適切に管理すれば、数年間使用できるとのことでした。

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小さな種の中にある未来

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今回の研修会で学んだのは、採種技術だけではありません。便利な時代になっても、最後に種を守るのは人の手であり、人の思いです。

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小さな種の中には、その土地の歴史、文化、そして未来への希望が詰まっています。

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與治兵衛きゅうりを通じて、種をつなぐことは、人をつなぐことでもあると感じた一日でした。